アメリカでは「地球は平坦」「コロナは存在しない」といった「非科学主義」を信じる人たちが増えている。NHK記者の及川順さんは「車社会のアメリカではラジオが充実している。だがラジオ局の中には、『ニュース解説』と称して非科学的な主張を垂れ流す番組が存在している」という――。

※本稿は、及川順『非科学主義信仰』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

カーラジオを操作する人
写真=iStock.com/AHMET YARALI
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ラジオが充実している車社会アメリカ

「非科学主義」を「布教」しているのは誰なのか。ソーシャル・メディアが拡散を加速させているが、それだけではない。その一つがオールド・メディアの代表格であるラジオだ。

アメリカは、ニューヨークのような公共交通機関が発達している都市を除けば車社会だ。通勤に車、子どもを習い事に連れて行くのに車、買い物に行くのに車、休日に家族でどこかに出かけるにも車、などという具合だ。このためラジオが充実している。

例えばロサンゼルスでは、音楽関係が中心のFMはジャンルごとにクラシックの局、ジャズとブルースの局、ロックの局などと細分化され、スペイン語の放送も充実している。FMは71局、AMは37局もある(Los Angeles Almanac 調べ)。

「非科学主義」をまき散らす政治トーク・ラジオ

数多くあるラジオ番組の中で「非科学主義」の伝道師の役割を果たしているのが、政治関係のトークが売りのトーク・ラジオだ。そのことに気づいたのは、2021年12月、自家用車が故障したため、タクシーのようなサービスを使って、支局から自宅まで戻った時だった。

筆者の自宅があるエリアは、アジア各国や中南米各国、それにヨーロッパなど世界各地からの移民が多く、政治的にはリベラルな地域だ。「非科学主義」にはまる人が増えるような土壌はない。

そんな地域に向かう道中、50歳くらいと見られる男性の運転手は、「ラジオでニュースを聴くのは好きか」と尋ねてきた。好みでない音楽を車内でガンガンかけられるよりは、ニュースを聴く方がよいと思ったので、「好きだ」と答えたところ、運転手が周波数をあわせたのが「トーク・ラジオ」だった。

「バイデン政権が進める新型コロナ対策は、神のご意志に反する」などと批判が続く。運転手は「このラジオ局のニュース解説はわかりやすいから、あなたも周波数を覚えておくように」と言う。